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醸造技術の花形「米麹」

 甘酒やべったら漬け作り、みりんなど、果ては日本酒醸造には欠かすことのできない働きをしているのが『麹カビ菌』です。麹カビ菌は、米や大豆などに植え付けられ、繁殖したものが、米こうじや醤油醸造用の豆こうじとして利用されます。

 麹カビ菌は、増殖するためには酸素が必要な好気性菌で、繁殖適温は25度〜30度で、50度前後で死滅します。甘酒つくりでは60度前後で米を糖化させますが、それは麹カビ菌の酵素の働きを利用したもので、その温度帯では麹カビ菌そのものは生きていくことができません。

 麹カビ菌の繁殖に悪影響を及ぼす、乳酸菌や納豆菌の適温は、いずれも麹カビ菌の適温よりも高く、乳酸菌で40度〜50度、納豆菌で40度〜70度です。このため麹カビ菌を増殖させたい場合は、むやみに温度を高くすると他の雑菌の繁殖を招くことになるため、発酵初期には25度〜30度の範囲を保つことが重要になります。


米麹(できあがり分量約1.15kg)の基本的な材料

 種麹(麹カビ菌) 10g   米 1kg 
※参考情報
  ・米を栽培する方法はこちら

麹室を作るための材料と、用意しておきたい器具

項番 準備するもの   目的
1. おいしい水が入っていた段ボール2つ 温度を一定に保てる 『麹室』 として利用
2. 銀マットの覆い 熱を逃がさないための断熱材として利用
3. 温度計 仕込み時の米の温度計測や麹室内部の温度測定用
4. ホットカーペット 温度維持用の主熱源として使用
5. アースノーマット(本体のみ) サーモスタットと電熱器を内蔵した補助熱源として利用
6. タッパーウェア さらし布で包んだ米こうじを入れるための容器として利用
7. さらし布 米こうじ包み用
8. 焼き網 段ボールに開けた穴から麹が落ちないように土台代わりに使います
たまたま、5cmくらいの足つきのものがあったのですが、空間を確保できて便利でした

Let’s start!

作り方  
【麹室用の箱を作る材料】

 麹を発酵させるための『麹室』として、上記に記したような材料を用意します

【麹室の作り方】

 1.2つの段ボール箱を重ね合わせ、箱と箱の接合部に空気が出入りするような穴(写真の三角形×4つ)を開けます。
 2.箱に100円ショップで売っている銀マットを、内側がアルミ箔になるように貼り付けます。
 3.補助熱源としてアースノーマット(写真緑色の製品)を収納します。
 4.温度計測用のセンサー部が入る穴をあけておきます。

 麹室の拡大写真はこちらにあります。

【洗米と蒸し上げ】

 仕込み前日の深夜に米を研ぎます。仕込み当日の早朝、項番5の引き込み作業を始めたい時間の2時間前くらいには、米をザルに上げてしっかりと水切りし、蒸し米にする作業を始めます。
 蒸しあがった米は、清潔に拭いた食卓などの上に広げ、しゃもじでスライスしながら米粒の表面の水分とあら熱をとばします。

【米粒をもみほぐす】

 あら熱がとれたら、食卓の上の米粒を手のひらで転がすようにしながら、米粒がばらばらになるように、もみほぐします。この目的は次の3つです。
  1.米粒をほぐすことで、麹カビ菌をまんべんなくつけられるようにします。
  2.米粒表面の水分をとばし、水分が米粒の表面に残らないようにします。
  3.米粒の温度を36度まで下げます。
ベトベトしていた米粒がだんだんとパサパサした感じになります。

【引き込みと床もみ】 (作業開始 初日朝9時

  麹カビ菌を種つけするときの温度としては、36度〜34度を目安とします。これはごはんを握ったときに、ごはんから熱を感じない程度の温度になります。ほんわかと暖かいときには、まだ40度以上ありますので、麹カビ菌がダメージを受ける恐れがありますし、高温好きな納豆菌が繁殖する危険性が高まります。
 36度〜34度まで冷めたら、麹カビ菌を茶こしでふるい落として、手のひらに挟み、すり込むにして、よく混ぜ込みます( 『床もみ』 といいます)。

【もみ上げ】

 麹カビ菌を混ぜ込んだ米を、ひとまとめに山状に積み上げて、蒸し上げに使ったさらし布で包み込みます。これを段ボールで作った『麹室』にいれ、毛布などをかぶせて、加温します。加温中は、麹室内部の温度が30度〜31度になるように、ホットカーペットやアースノーマットの電源を入れて温度調節します。とは言っても、この段ボールで作った麹室は、サイズが小さいので、品温の上昇とともに、麹室自体の温度が徐々に上昇するのは避けられません。  (^_^;)
 麹菌の繁殖には酸素が不可欠ですが、始めの床返しまでは、麹カビ菌は発芽を待つ状態ですので酸素の供給よりも、温度を一定に保つことを優先させます。

【床返し/切り返し】 (作業開始10〜12時間後 初日夜9時)

 米粒の表面が乾き、米粒どうしがくっついた状態になり、固いかたまりになりはじめます。そこで米の内外の温度差による麹の繁殖むらを無くすために切り返し (上下を置き換えることですが、実際には米つぶを一粒ずつばらばらにほぐすことによって、熱くなりすぎた内側の熱を放熱させると共に、内側にこもっている水蒸気を放散させる作業になります。) を行い、再びさらし布で包み込んで麹室に入れます。まだ菌糸は目につきませんね。
 (注意書きにある、『品温』は、プロが作る場合の米こうじの内部の品温です。温度管理の目安にしましょう。)

 麹室に空気が出入りできるような穴を開けます。今回は、おいしい水の箱に付いていた 『取っ手』 部分を上下の箱で1カ所ずつ、計2カ所だけ開けることにしました。 (勝手に閉じてしまわないように、横方向に、ガムテープで引っ張ってあります。)
 空気窓を開けたら、上から毛布などをかぶせ加温しておきます。次の工程以降でも作業が終わる度に毛布をかぶせ加温します。

【盛り】      (作業開始18〜22時間後 2日目朝7時)

 切り返しを行い、再びさらし布で包み込んで加温し、麹室に入れます。この頃から菌糸の増殖が急激になりはじめ、出麹(でこうじ)のときに最大になります。蒸米の外観は、菌糸が繁殖しはじめているため、白っぽくなっています。
 ※専門家はこの工程で30Kg前後ずつ小分けして、箱に『盛る』ので盛りといいます。

10 【手入れ 仲仕事】 (作業開始32時間後 2日目夕方5時)

 仲仕事をする前は、米こうじが写真のように固まりになってきて、菌糸が目につくようになります。また、米こうじの固まりを手に持つと、暖かなぬくもりを感じ取ることができます。 品温:34〜36度

11  仲仕事では、切り返しを行ない、固まりをほぐしながら水蒸気を飛ばします。内部だけが偏って温度上昇することのないように、窪みを作ったり、畦(あぜ)を作ったり(写真)します。これ以降、さらし布では包み込むことはしません。(カビの仲間である麹菌が好む湿度を保つため、麹室には入れます。)
12

【手入れ 仕舞仕事(しまいしごと)】 (作業開始40時間後 3日目深夜1時)

 切り返しを行って水蒸気を飛ばし、品温が上昇するのを防ぐために、全体的に表面積を拡げ、平らにならします。
 ※本来であれば、最高品温が42度以内におさまるように頻繁に温度管理を行い、温度上昇を抑えますが、品温を計る温度計までは持ち合わせていなかったので、そのまま寝てしまいました。 (^_^;)  品温:37〜39度

13 【出麹(でこうじ)】 (作業開始48時間 3日目朝9時)

 麹に栗のような香りがでてきたら、麹室から出します(出麹といいます)。

14  ざるに麹を拡げてほぐし、15度〜16度の乾燥したところで20時間ほどおいて冷やすとともに、乾燥させます。(枯らしといいます)
 これで自家製米こうじのできあがりです。乳酸菌や納豆菌などの雑菌を混入せずにできたでしょうか…。  ( ^_^)/□☆□\(^_^ )
     

ここでの「こつ」

※1 【種麹(麹カビ菌)
 プロの場合通常、1Kgの精米に対して種麹は1gとなります。家庭での自家培養では失敗がないように種麹を多めにしてあります。これまでにも
  1.15gの種麹で0.8kgの米 (種麹18.8g/米1kg)
  2.30gの種麹で3.5Kgの米 (種麹 8.5g/米1kg)
  3.30gの種麹で4.0Kgの米 (種麹 7.5g/米1kg)
  4.20
の種麹で5.0kgの米 (種麹 4.0g/米1kg)
 と、様々な割合いで種麹を利用しましたが、いずれも遜色のない出来映えでした。醸造業者の 種麹1g/米1kg に比べると4倍以上の濃度の種麹を使っているのですから、当然といえば当然でしょうけど…。
 この種麹は、麹屋さんで購入することができます。麹屋さんは、NTTのタウンページで、『こうじ』の欄に記載されています。千葉市の場合だと、10数件が記載されていました。一度みてみてください。思わぬところにあるものです。ただ
必ずしも麹屋さんだからといって、種麹は分けてもらえるわけではないようですので、あらかじめ電話で確認するようにしてください。 通販で購入できるところと、今回種麹を分けていただいた櫻井こうじ店さんを、例として下記に紹介します。2004.1.14更新

店名 株式会社 ビオック 櫻井こうじ店
所在地 愛知県豊橋市牟呂町字内田111−1 千葉県千葉市花見川区検見川町 2−80
電話番号 (0532) 31−0311 (043) 273−8067
URL http://www.bioc.co.jp/home.html http://www.sakura-jp.info/
米こうじ用種麹 840円/20gあたり 100円/10gあたり

 海外通販しているサイトについて、ouistiti さんに紹介していただきました。カード支払もできるということです。
  1) http://www.kagi.com/vision/sake/default.html
  2) http://www.northernbrewer.com/wine-yeast.html

※2 【段ボール
 おすすめの段ボールは、おいしい水が入っていた箱ですが、他にも缶ビールの箱や、カップ麺の箱など、ケース買いした場合の段ボールなら使えそうです。ただし、発酵の後期には水蒸気が多く出るため、段ボール内部が結露し、強度が若干低下するようです。このため比較的丈夫だという点で、「おいしい水」が入っていた段ボールがおすすめです。

 また、このレシピでは、1kgを仕込んでいますので、上段の1つの箱があれば事足りるのですが、上段と下段の2つの箱で組んでおくと、4kg程度までの仕込みに耐えることができます。4kgの麹を作ることができれば、できあがり重量16kg程度の味噌にすることができますので、家庭では十分な容量になるはずです。

※3 【温度計
  3641温湿度ロガー(温湿度センサ付)

 今回の米こうじ作りで使用した温湿度計測器を紹介しておきます。麹室の内部温度の計測には、温度表示部の本体と、温度計測部のセンサが離れている製品が使いやすいようです。発酵食品を作るときには、継続的に温湿度計測ができるものがひとつあると便利です。
 その点、この製品は、センサ部分がコードで延長できるので、センサ部分を麹室内部に差し込んでおくことで、麹室を開けなくても内部の温度が計測できます。ちょっと値段はかさみますが、検討してみる価値はあると思います。


\28,800
3912コミュニケーションベース(写真右はUSBに対応していない3911です)

 上記の装置で計測したデータをパソコンに転送して分析したいというような欲求に駆られた場合は、あとで『コミュニケーションベース』をそろえられてはいかがでしょうか。これがあれば、のべ16,000個の計測データをグラフ化(今回のグラフはこちら)したり、最大値/最小値/平均値などを容易に分析するための解析ソフトもついてきます。ただし、こちらはなくても麹室の温度管理はできます。それぞれの価格は決して安くはありませんが、そろえるといろいろと用途が拡がりそうです。

これらの製品に関して詳細は、神栄株式会社さんのページをご覧ください。


上記 + \21,800
※4 【アースノーマット
 アースノーマットの電熱効果を確認するために発泡スチロールの箱に入れて能力テストをしたところ、次のようになりました。どうも40.0前後でサーモスタットが働くようです。

  ・通電開始時     --> 17.7度 
  ・通電開始30分後  --> 33.3度 
  ・通電開始1時間後  --> 36.8度 
  ・通電開始2時間後  --> 38.6度 
  ・通電開始4時間後  --> 39.3度 
  ・通電開始8時間後  --> 40.0度 

 ※測定個所 … 麹箱の上部蓋の内側に取り付けた温度測定器で計測
 ※室内温度17.7度

※5 【米を研ぎ
 米の研ぎ方です。
 1.
ボールに入れた米に水を注いでさっと洗った後、米ぬかの臭みを吸わないように速やかに捨てます。
 2.手のひらを使って、米つぶどうしを摺り合わせるように、やさしくグイッグイッと押さえつけます。
 3.新しい水を注いで、白く濁った水を速やかに捨てます。
 4.もし2.の作業だけでは不十分な場合は、再度2.と3.を繰り返します。
 5.水を2〜3度入れ替え、白く濁らなくなったら、米研ぎは完了です。
 6.研ぎ終えた米は水に浸けておき、蒸し米にする作業開始1時間程度前に水を捨て、余分な水分を切っておきます。

※6 【作業開始 初日9時
 作業開始の起点時間についてですが、洗米及び蒸し米は、作業開始の起点ではありません。洗米は仕込み前日の深夜23時頃に始め、蒸米は当日の朝7時頃に始めました。以降通算している作業時間の起点は、引き込みを始めた時間です。

※7 【蒸し米
 2段になっているせいろで蒸す場合の蒸し時間は、下段では標準的には強火で30分です。上段にあったものは、下段に置き換えてから20分となります。
 しかし、一度に蒸すもち米の量が多いと、さらに時間がかかります。そのため、時間で判断するよりも、蒸し上がりの米の状態で判断することをお勧めします。蒸しあがったもち米は「芯」がなくなり、むにゅっとした食感になるので、試食してみて蒸し上がりを判断します。せいろを使わない場合、1段で大量に蒸そうとする傾向があります。この場合、蒸すだけで1時間前後もかかりますので、試食で判断することは大切です。
 また、時間が長くなると、表面はさらっとしていても、お湯に近い内部のもち米には、たくさんの水分を含むことになりますが、蒸かした米にたくさんの水分が含まれていると、麹菌の菌糸が表面ばかりに繁殖してしまい、『良い米こうじ』にはならないそうです。良い麹は、米粒のところどころに菌糸が生え、その菌糸が中心部に向かって食い込んでいる麹をいうそうです。そのためにも種麹を混ぜ込むときには、温度を冷ますと同時に、余計な水蒸気を飛ばします。

※8 【水分が米粒の表面に残らない
 前述の蒸し米のところでも説明しましたが、麹カビ菌は水分のあるところへ菌糸を伸ばしながら繁殖していきます。米粒の表面に水分が多いと米粒の表面にだけ麹カビ菌が繁殖することになり、良い米こうじになりません。そこで、米粒の表面の水分をとばし、米粒の内部にだけ水分を含む状態にすることで、麹カビ菌が米粒の内部にまで、菌糸を伸ばすような環境を整えてやるわけです。このような米粒の状態を『外硬内軟』といいます。

※9 【36度〜34度を目安
 麹カビ菌がダメージを受けてしまうので40度以下まで冷めたことを、しっかり確認しましょう。万一、温度が下がりすぎたとしても、主熱源(つまりホットカーペット)で加温すれば良いことなのですから…。2004年には、内部にドライヤーをセットし、項番3で紹介している温度計とにらめっこしながら、コンセントを抜き差しすることで、強引に温度を上昇させてしまいました。 (*^▽^*)/ 

※10 【蒸し上げに使ったさらし布で包み込み
 蒸し上げに使ったさらし布には、たくさんの米粒がくっついているはずです。これをここで一生懸命に取っても、またくっついてしまうだけなので、ここではそのまま、米粒がくっついた面が内側になるようにして包み込んでおき、床返し(切り返し)や盛りの工程で、剥がして全体に混ぜ込みます

※11 【30〜31度になる
 温度が下がるようであれば、アースノーマットのスイッチを入れ、30度よりも下がらないように(高温になると麹カビ菌がダメージを受けるので上は45度まで)、温度管理をします。

※12 【温度調節
 今回の仕込みでは、ホットカーペットは最小に設定して、アースノーマットは2つのうちの1つだけを通電させて、30度を維持できる熱量を与えました。ただ発酵熱がプラスアルファとして生じるため、もみ上げから、出麹までの温度推移(麹室内部)は若干右肩上がりとなります。(プロもだよ) 今回の温度推移をグラフ化したものを右に示します。

※13 【枯らし
 プロは室温15〜16度の乾燥室に20時間程度置いて乾燥させます。

※14 【警告】
 注意喚起です。手作り食品のなかでも発酵食品は、器具や器具を扱う手などに雑菌がついていると思わぬ事故を招く場合があります。衛生には十分に気をつけて、楽しい食品づくりを心がけるようにしましょう。また、嫌な臭いがちょっとでもしたら口にするのは止め、廃棄する勇気をもちましょう。何事も自己責任の意識をもって行動してください。

参考文献
 1.http://www.mitene.or.jp/~uejima/index.html 日本酒のできるまで http://www.mitene.or.jp/~uejima/sakenokoutei.html
 2.喜多屋 http://www.kitaya.co.jp/

追記 2004.12.12 蒸し米の作り方を詳述するようにしました。

 


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